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ポスドク1万人計画

ポスドク1万人計画は、日本の理工系の問題を典型的に表している事例である。

ポスドクの数を増やせば科学立国に資するという計画だった。一見すると、人数は増える方が科学立国のために良いように思える。しかし、これにより、博士の地位は低下してしまった。博士なのに職に就けないというひどい状況が出現してしまった。ポスドクの数を増やせば、科学立国ができるという単純な考え方は正しくないのではないか。ポスドクの地位が低下すれば、優秀な人材が博士にならなくなる。博士の地位が低下すれば、長期的には、科学立国に反することになる。ポスドク1万人計画が博士の地位を低下させるとすれば、長期的には、科学立国に反することになると思うのだが、そのような意見は恐らく通らないだろう。

ポスドク1万人計画のように、どんどん人数を増やすことは、今後も行なわれるであろう。これは理工系の地位を劇的に引き下げる。

博士に行くことは大きなリスクになってしまう。無職になる危険をおかすのは誰でも嫌なものだ。だから、本当に優秀な人が博士に行くことを躊躇することになってしまう。しかし、それでも人数を増やした方が研究論文数等は増えるだろうし、博士の価値は下がっても、数でカバーすればよいと考える人は多数派であり続けるだろう。だから、今後も、博士や理工系の地位は下がっていくことをとめることはできそうにない。本ブログは、このような流れを食い止めたいと思うが、見てくれる人もあまりいないようだ。

ポスドク増員というと科学立国のためになりそうで聞こえが良すぎる。そこで、むしろ博士の地位を低下させる計画と名づけた方がよいだろう。博士の地位を低下させればさせるほど科学立国が進むという考え方を正面に出していく必要がある。

要するに、ポスドクの地位を低下させ、質よりも量で勝負することが、科学立国に資するという考えである。たとえば、10万人のポスドクを作り、さらには100万人のポスドクを作ればよい。ポスドクという言葉が、ニートを意味するようになるところまで、ポスドクを増やし続ける。

そうすれば、本当にそれが科学立国に資するかどうかが明らかになるだろう。博士の数を増やせば増やすほど、科学立国を実現することに近づくと考えている人がたくさんいる。いっそのこと、1000万人を博士にしてもよいだろう。

そうすれば科学立国ができるのだろうか。できると考えている人はたくさんいると思う。1万人で研究するより、1000万人で研究する方が、効果が上がるように一見見える。研究論文数も増えるだろう。だから人数は増やせば増やすほど科学立国に近づくと考える人も多いのだ。

このような考え方が支配的であれば、これからも博士の地位、理工系の地位はとめどなく引き下がっていくだろう。もしこのような考え方が続くのであれば、優秀な人材が理工系に進むのは危険すぎる賭けとなる。

このまま行くと、人数を増やせば科学立国ができるという論調は今後も強くなることはあっても弱くなることはないだろう。1万人のポスドクより、その1万人と残り99万人のポスドクの方が、研究成果が出そうだという考え方を変えるのは難しい。増やせば増やすほど科学立国に近づくという考え方を論破するのは難しい。だから、人数の増員を論破できない。論文数も増えるし、研究成果も増える。人数は増やせば増やすほど表面的には研究成果が増えていくのだ。だから科学立国を実現しようと考えれば人数を増やすという話が出てくる。これからも、人数を増やせという大合唱は続くだろう。科学立国の重要性を人々が認識すれば認識するほど、人数を増やせという論調は強くなっていく。そして、それはとどまることなく、博士と理工系の地位を引き下げていく。

昔は、大臣と博士が並び称されていたことを知らない人も多くなったのではないだろうか。今は博士が大臣と同じ地位だという人はいなくなった。それでも、博士に進む人は絶えることはない。どんなに博士の地位が低くなっても、博士になる人はいなくならない。だから、博士の人数を増やすことはできる。しかし、本当に優秀な人は、博士にならなくなっていくだろう。それは、科学立国の終焉を意味するのではないだろうか。